チン州のインド国境、リーコーダ(Rihkhawdar)に行ってきた(その2)
ミャンマーの国境というと、中国国境のムセ・瑞麗とタイ国境のミャワディ・メーソートに行ったことがあるが、両方とも人と車で大賑わいだった。しかし、ここリーコーダ・ゾーコーダの国境はずいぶんとひなびている。本当に国境貿易をしているのだろうか。
インド側ゾーコーダの国境ゲートの近くは何もない。正面にはちょっと大きな白い政府の建物があったが、中に人のいる気配はなかった。人がいたのは国境の係官と、ゲートすぐ隣のバイクタクシー数人くらいだ。ミャンマー側のリーコーダは多少賑わっていた。国境の近くで目についたのは酒屋だった。一本の路地に酒屋が3〜4軒並んでいた。
店を覗くとい所狭しと、いろんな種類の酒が売られている。恰幅のいい女性が店を切り盛りしていた。その彼女がこの店の主人で、インド系ミャンマー人だった。客が途切れたところで彼女に話を聞いてみることにした。
ビールの売れ筋はダゴンビール(Dagon Beer)のエクストラストロング500ml 缶。ミャンマーでビールというと、ミャンマービール(キリンビールが2015年にミャンマービールを買収したので、今は日系ビールだ)が最も売れている。この店でもミャンマービールを置いているが、圧倒的にダゴンビールのほうが人気がある。理由は簡単、アルコール度数が高いから。ミャンマービールがアルコール度数5%だが、ダゴンのエキストラストロングは8%だという。値段はダゴンもミャンマーも2,000チャット(約150円)だ。
ウイスキーの人気ナンバーワンは5リットルボトルのスコッチウイスキーだという。5リットルのスコッチ? 聞き違いかと思ったが、本当に5リットルのウイスキーだった。店内の右上の棚に置いていた。
安いほうが High Commissioner で、100,000チャット(約7,280円)だ。高い方はシーバスリーガルで400,000チャット(約29,110円)。それ以外にもいろんな種類のウイスキーがここ狭しと並べられている。ミャンマーではウイスキーの輸入が厳しく制限されていて、ヤンゴンの酒屋で見ることができるウイスキーは国産のものばかりだ。なのに、この辺境地によりどりみどりの舶来ウイスキー。ヤンゴンのスコッチファンやバーボンファンはリーコーダに行くのをお勧めしたい。
私が女主人と話をしている間にも、客がひっきりなしにやってくる。多くはインド側からやってくる人たちだという。一人でけっこうな量を買っていくらしい。インドでは酒の販売が厳しくて酒税も高いので、わざわざ国境を超えて来るというのだ。ここはチェックなしのフリー国境なので、インド側に持って帰っても「アルコールの免税は2本までだよ」なんて無粋なことは言われない。いくら本数が多くても、個人で買っているようなものはナーレームで問題ないのだ。
では、正規の貿易はどうなっているんだろうか。チャーターした車のドライバーに、インドとの貿易に詳しい知り合いがいたので話を聞くことができた。ミャンマーがインドから輸入するのは、化学肥料と髪が多いという。髪??? そう、人の髪の毛である。その多くはそのまま中国へ輸出されるのだという。インド人の髪がミャンマーを通って中国人の頭に乗るのだろうか。もしかして、この国境を越えた髪が中国でかつらとして加工され、日本に送られているのかもしれない。
ミャンマーからインドへ輸出されるのは、ビンロウ(檳榔)の実と中国製品が多いという。ビンロウの実は、ミャンマーでコンヤ(日本ではキンマ)と呼ばれる噛みタバコに使われる。ビンロウの実はインドでも採れるはずだがわざわざミャンマーから輸入するのは、品質がいいからか値段が安いからかは不明だ。ということで、額は少ないけれどこの国境を通じて緬印貿易が行われているようだ。
ところで、ここリーコーダにインドとの国境ゲートがあることを知らないミャンマー人が多い。しかし、ここにはミャンマー人の多くが知っているものがある。ミゾ語でリーディル(Rih Dil)と呼ばれる湖だ。国境から車で10分ほどのところにあるこの湖は、ハート型をしているということでミャンマー人、特に若い女性たちに大人気だ。私もこの湖に立ち寄ってみた。
ビューポイントから見るリーディルは、向かって右側がハートの頭だという。と、言われればなんとなくそうかなという感じもする。
この日の宿は、リーディル湖岸から徒歩1分のバンガロー形式のゲストハウスだった。身分証明書もパスポートも見せなくてもいいという宿だったが、超ひさしぶりの「ザ・ローカルゲストハウス」だった。しばらく洗ってないようなシーツと毛布のおかげで、20〜30年前の若い頃の旅を思い出しながら寝ることができた。
⇒ チン州のインド国境、リーコーダ(Rihkhawdar)に行ってきた(その1)
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