ミャンマー伝統音楽のアーカイブプロジェクトに協力する井口さん
先日、ヤンゴンのレコーディングスタジオに行ってきた。レコーディングスタジオといってもヤンゴン郊外の一軒家、ヤンゴン文化芸術大学のディラモー先生の自宅だ。タクシーで到着すると、自宅を改造したスタジオらしき建屋から音がこぼれてきた。
タタトト、タタタタッ 、ミャンマーの伝統音楽サインワインの音だ。手作り感いっぱいのスタジオの調整室に入ると、macの画面を見ながらトラックボールとキーボードを操作している井口さんがいた。井口さんは日本のレコーディングエンジニアで、今回ヤンゴンにやってきて2週間ほど。ずっとここディラモー・スタジオに缶詰状態だ。
今日はミャンマーでナンバーワンといわれているサインワイン奏者、ミャンマービー・チャウセイン(Myanmar Pyi Kyauk Sein)と彼の仲間たちによるレコーディングということで、井口さんから誘いを受けていたのだ。チャウセイン氏とは私も3年ほど前に会ったことがあるので、久しぶりの再会になった。3年前のチャウセイン氏の演奏は友人が撮影・録音し、こちらのYoutubeページにアップしている。
井口さんがレコーディングエンジニアとして参加しているこのレコーディングは、今回だけではない。実は、ミャンマーの伝統音楽を1,000曲録音して後世に残そうという大きなプロジェクトで、井口さんが全面的に協力しているのだ。
井口さんが初めてミャンマーに来たのが2013年、そのときに出会ったのがディラモー先生だった。ディラモー先生はヤンゴン文化芸術大学の第一期卒業生で、2003年から2006年まで東京芸大の音楽部作曲科に留学していたので、日本語も達者だ。現在文化芸術大学で音楽学部長をしているが、ミャンマーの伝統音楽をアーカイブとして残したいという個人的な思いを以前から持っていた。そんな時に出会ったのが井口さんだ。二人はすぐに意気投合し、プロジェクトが動き出した。
2013年から動き出したこのプロジェクト、2019年の12月までには1,000曲をまとめ上げるということで、今レコーディングの真っ最中だ。残るは500曲というところまで来た。ミャンマーで初めての音楽アーカイブプロジェクト、ミャンマーでは誰もやったことのない仕事だということで、大変なことがたくさんある。そもそも曲自体がちゃんと残っていない。歌詞が紙に残っていたとしても楽譜がない。曲を知っている人から直接聞くしかないのだ。こうしたことからコツコツ続けていかなければならないという気が遠くなるような作業だ。私がスタジオにいたときも、「ここの音は□☓じゃなくて◯△だろう」などと、演奏家たちが話し合っていた。
また、プロ用のレコーディング機器がミャンマーではなかなか手に入らない。そこで、井口さんがマイクをはじめいろんな機器を個人的に日本から持ってきたそうだ。
2019年に1,000曲の録音ができたら、iTunes や Spotify などを通じて海外でも聞けるようにするという。今から楽しみだ。
井口さんは日本で仕事をしながらミャンマーに通ってきているが、それは伝統音楽アーカイブプロジェクトのためだけではない。最近はインド国境の山に住むナガ人にも興味を持ち、何度か訪れている。そして、ナガの村で伝統的な巨大ドラムの制作の様子を捉えた映画も作った。その映画が今月18日の18時より ジャパン・カルチャーハウス(Japan Culture House) で上映される。映画の後は井口さんとディラモーさんの話が聞ける。とても面白い話になると思うので、興味のある方はぜひどうぞ。私も行きます。
Movie "Story of Khiam" & Lecture "Myanmar Traditional Music"
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