ミャワディに行ってきた(3)〜国境の巨大中古車市場
ミャワディには不思議な車があった。ナンバープレートが普通ではないのだ。ミャンマーのナンバープレートは2段になっていて、上にたとえば YGN (ヤンゴンの略)などと地域の略号があり、下に番号かある。ミャワディはカレン州(カイン州)なので、上段には KYN という略号がなければいけない。しかし、略号が何もなく単に番号だけのナンバープレートが非常に多いのだ。
ナンバープレートの謎
地元の人に聞いてナンバープレートの謎が解けた。これは非正規のナンバープレートだというのだ。役所が発行したものではなく、個人が好きな番号で勝手にナンバープレートを作るとのこと。では、地域記号が付いているのは正規のナンバープレートかというと、そうでもない。地域記号も勝手に付けている人が多いのだ。そうなると、ちょっと遠目から見ると正規のプレートかどうかわからない。ただ、近くで見るとはっきり分かる。正規のものは番号が刻印されているので数字の部分が凸になっているが、非正規のものは刻印なしで単に数字を書いたものが多い。それに、正規だとプレート上部両端に小さく刻印された丸いマークがあるが、非正規はこれもない。ということで、慣れた人だと見分けがすぐつくらしい。
ミャワディで走っている車の多くはこの非正規のナンバープレートの車だ。中にはナンバープレートも何も付けていない車が堂々と走っている。何でもありだ。どうも、ミャワディでは車を買っても登録しなくてもいい。ただし、走ることのできるのはカレン州内だけだ。カレン州内では「ナーレーム」で大目に見てもらえるのだ。
車を買っても登録しなくていいので車に関わる税金は一切払う必要はない。噂ではなんと150万チャット(約13万円)くらいから買えるらしい。ヤンゴンでは一番安い日本の中古車で1,100万チャット(95万円)くらいするので、大きな違いだ。要は密輸であるが、その現場を見たくなった。
そこは13番ゲート
ミャワディに住むAさんに頼んだ。さっきまで冗談を言っていたAさんが急に真面目な顔になった。外国人が「そこ」に行けるかどうかわからない。もし行けるとしても、絶対に写真を撮ってはいけない。見つかったらどうなるかわからない等々・・・
その場所はミャワディの人なら誰でも知っているけど、外部にはあまり公にできない場所らしい。
ところで、Japan Used Shop があったような「国境」には1番ゲート、2番ゲートというように名前が付いている。なぜか1番、2番はあっても3番から9番までは欠番だ。そしてこの中古車市場のあるゲートは13番ゲートという名前が付いているという。
Aさんの車で13番ゲートの近くまで送ってくれた。そこで車を降りてゲートに向かった。昨日のJapan Used Shopのような、どこに入り口があるかわからないようなゲートとは違い、車の出入りを制限するバーもついている立派なゲートだ。銃を持った若い兵士(KNU?)もいた。ただ、それほどピリピリした雰囲気ではない。誰にも咎められず、中に入っていった。私のことを普通のミャンマー人だと思ったようだ。
ゲートから国境の川までちょっと距離があったが、他のゲートとは違いきれいに整備されていた。タイ側から入ってきたと思われる車も数十台整然と並んでいた。国境の川に着いた。昨日のひなびた川とは全く違い、何人もの人たちが働いていて活気があった。
向こう岸は緩やかなコンクリートの坂になっていて、横5列にきれいに車が並んでいた。全部で100台くらいあるのではないか。川岸にはボートが横付けされ、今まさに車を載せている最中だ。ボートに5台ずつ車を手際よく載せ、すぐにこちら岸に運んできている。全てがシステマティックに動いていた。車を乗せたボートが15分に1隻程度ミャンマー側に到着しているようだ。となると、1時間で20台、1日で160台、1ヶ月で4,000台か。かなりの数だ。
国境は中古車の一大集積地
車を運ぶボート以外に、昨日私が乗ったようなボートがあった。一人250チャットで向こう岸に渡れるとのことで、ボートに乗った。誰にも疑われず向こう岸に到着した。車が並んだ川岸の坂を登りきると、その向こうにもずっと車が並んでいた。左側には大きな建屋。全部で1,000台以上はあるだろう。壮観だった。
路肩に座っておしゃべりをしていた4人組の男たちがいた。みな色が黒くて濃い顔をしているのでインド系だろうか。
「ここで車を買えるの?」
「買えるとも。こっちに来な」
一人の若者についていき、屋根付きの建屋に入っていった。
この建屋の中にあったのは普通の車だけではなかった。大型バイクに何と赤いフォーミュラカー、そしてスピードボートまであった。大型バイクは200万チャットだと言っていた。安い車はほんとうに150万チャットくらいで買えるらしい。フォーミュラカーはいくらなんだろうか。
「写真撮っていいい?」
「いいよ」
と、撮ったのが冒頭の写真だ。気のいい兄ちゃんは気軽に撮影を許可したが、兄ちゃんが写っている写真をそのまま載せるのはやばいかもしれない。ということで、ボケボケ写真でがまんしてほしい。
オーナーはパキスタン人?
そろそろこの巨大中古車市場を後にすることにした。
「ここから食器や自転車を売っているところまで歩いていける?」
「俺が送っていってやるよ」
と、バイクの後ろに乗れという。ありがたく送ってもらうことにした。
会社の広い敷地内を走っているときに、後ろから彼に声をかけた。
「ここの会社のオーナーはカレン人?」
「いや、日本に住んでいるパキスタン人だ」
「えーーーーー、パキスタン人!!」
「ここにもパキスタン人が何人か働いている」
びっくりだ。日本の海外向け中古車市場を牛耳っているのはパキスタン人だという話は、以前東京に住んでいたときにミャンマー人から聞いたことがある。まさかここもパキスタン人の会社だったとは。
後でジャーナリストのIさんから聞いたのだが、カレンのKNUなどの民族軍が政府と停戦合意をしたときの条件のひとつに、中古車輸入の権利があったらしい。それがここミャワディとメーソートの間が行われていたわけだ。しかし、実際にビジネスを仕切っているのはパキスタン人だった。
国境は面白い。
コメント
高野さんの「アヘン王国潜入記」を思わせるスリリングでディープなお話でした。このブログを見た日本人が一山大儲けを企んでヤンゴンから殺到するのでは。
高野さんと比較してもらえるとは恐縮です。
一山当てるためにはKNUあたりと話をつけなきゃいけないんで、大変そうです。