あまり聞いたことはないかもしれないが、ミャンマーには古くから続く伝統医療が存在する。マンダレーの伝統医療大学で専門技術を学んだ医療師たちが方々で活躍。一方で、国が設ける保健省・伝統医療局も医療師の質向上に力を入れる。果たしてミャンマーの伝統医療とはどのようなものなのか? 専門大学を卒業後、医療師として活躍し約10年(2014年時点)になるトウ・ウィン・ニラ医師の治療院を訪れた。
体の不調にハーブの力!
ヤンゴンはサンチャウン、バホーランから生活感あふれる小道に入ると、星マークのついた黄色い看板を掲げた家がある。中を覗くと、近所からやって来たと思われるおじさん、おばさんが椅子に座り、「足が痛くて」「腰が痛くて」と、貫録のある女性に訴えていた。地元民から厚い信頼を得ている伝統治療師・ニラ先生だ。
彼女によれば、ミャンマーの伝統医療の歴史は古く、起源は仏陀誕生の時代にまで遡る。インドからの強い影響を受けた治療法で、そのカバー範囲は広く、来院する患者の主な症状としては、肩や関節の痛みや、脳卒中などの後遺症、麻痺症状、神経性の病など。年々、伝統医療師の数も患者数も増加傾向にあると先生はいう。
治療院に入ってすぐに、ずらりと並んだ大小の小瓶や容器が目に入った。中には、茶色の粒や透明なペーストが入っている。先生が自ら調合、加工した塗り薬や飲み薬だ。主に彼女の出身地・ピィから取り寄せた薬草や、専門業者に委託し、乾燥させたり、粉末状にした薬草を使って作るのだという。
奥の施術室では、何やらボール状になった青と黒の布が鍋のふたの上に載っている。何をしているのだろう? 布の中身を見せてもうらと、そこにはカラカラに乾いた葉っぱとターメリックやジンジャーの粉、つまり薬草が入っていた。このボールを、モーニィンズィー、もしくはゴマ油を少量垂らした鍋のふたの上に置き、鍋の中に入れた水を沸かすことで間接的に温めて使うのだそうだ。症状に合わせ、青い布の物は上半身、黒いものは下半身と、適宜患部に当てるのだ、とニラ先生。ふたの上で加熱された油の熱により、ボール内部が温められ、中の薬草成分がジワジワとしみ出し、体に浸透、作用するのだそうだ。エステで使うハーバルボールのようなものだろうか。ちなみにモーニンズィーはモーニンユェと呼ばれる葉野菜から取れる油で、塗ると、固くなった筋肉が柔らかくなるほか、毛穴が開いて熱を出したり、足や手先に塗ると冷え性にも効果があるという。
血の巡り改善、だるさもスッキリ
では早速、体験開始。首が痛いことを伝えると、まず首を触診し、施術台の上に座るよう促された。先生お手製、メントール香のあるタイガーバームのような軟膏を首から肩にかけ塗ってもらった後、例の薬草ボールが登場。患部にリズミカルに押し付けるようにタッピンが始まった。じんわりと伝わってくるボールのやや熱めの温度と、先生の絶妙な力加減のコンビネーションがなんとも気持ちいい。温泉に入った時の、「ほわ~」と声を揚げたくなるようなリラックス感に包まれる。だんだん血行も良くなってきたようだ。
ボールの熱が冷める前に保温済みの他のボールと交換。そしてまた冷める前に交換という作業を何度も何度も繰り返し、タッピングを行いながら施術は進んでいく。合間、合間に、首や肩を揉みほぐしてもらうこと約20分。薬草ボールによる施術が終了し、今度は先生の指示に従っての首のストレッチが始まった。そして最後に、調合した薬草粉末のペーストをリトン布に塗ったものをシップのように首の後ろに貼り付けてもらい全工程が終了。湿布は、最低4時間以上貼ったままにしておき、6時間以内にはがすように、と先生。ペースト自体が温かく、温かさが持続するため、6時間以上張り続けると皮膚が炎症を起こす可能性があるそうだ。また、効果が薄れるので、その日のお風呂は禁止(午前中に施術を行った場合は、時間によっては夜に入浴可)。同じ施術を連続3日間続け、経過を見てその後の施術の予定を決める。症状によっては、独自に調合した飲み薬を出すこともあるという。
やっていただいた感想としては、指圧のような、ほぐしてもらった! というダイレクトな実感こそないものの、もやもやとした重だるさを感じていた首周りが軽くなり、心なしかすっきり。貼ってもらった湿布は、薬草の香りこそほのかにするものの、ポカポカと数時間にわたり温かく、冷めるまでの間心地よさが持続した。
湿布を貼ってから4時間もすると、はがす際に乾いたペーストがボロボロと落ちてくるため、取り外しは浴室等で行うことをお勧めしたい。
首の痛み、だるさが取れ、気分は爽快。漢方の甘い香りが苦手でなければ、挑戦する価値あり。先生の得意分野は子宮ケアとのことなので、生理痛や生理不順、それらの関連症状に悩む方には特におすすめだ。
(写真:後藤修身、文:菊池美弥、通訳:KhineKhine)